ジャカード織生地が出来るまで vol.2 工程①:全体構想 ~機織りの指揮者~

ジャカード織生地の製作工程には、約10種類くらいの専門職の職人が携わっています。布地の原料となる糸を染めてから織物を織る「先染め」か、織物を織ってから布地の状態で染色をする「後染め」かによって多少順番が異なりますが、こちらでは当社で取り扱うことの多い「先染め」の工程をご紹介したいと思います。

「先染め」ジャカード織生地の制作工程は、だいたい以下のような流れになります。

【ジャカード織生地製作の全工程(先染めの場合)】

工程① 全体構想
工程② 織物の設計図(組織データ)づくり
工程③ 紋紙(もんがみ)の作成   ※デジタル織機利用の場合は無し
工程④ 原料(糸)の仕入れ
工程⑤ 染色(せんしょく)   ※「後染め」の場合は「製織」後に実施
工程⑥ 整経(せいけい):経糸(たていと)の準備
工程⑦ 製織(せいしょく):織り
工程⑧ 加工   ※生地によっては無し
工程⑨ 整理(せいり):生地の風合いの仕上げ
工程⑩ 加工   ※生地によっては無し
工程⑪ 検品・梱包・出荷

写真上「先染め」の生地…色数を多く表現したい場合は先染めになることが多いです。】

写真中「後染め」の生地…染める素材の違いで染まり具合に変化が出ます。糸の種類によっては、違う色に染め分けることも出来ます。】

写真下「先後染め」の生地…「先染め」と「後染め」の組み合わせによる生地。水玉柄の生地は、ブルーとゴールドラメが先染めで、地のベージュと水玉のアイボリーが後染め。花柄の生地は、ブーケ花3色が先染めで、地の黒が後染め。】

写真:職人さんたちに指示を伝えるための実際の指図書はこんな感じ。タテ糸、ヨコ糸の太さや本数などの細かい情報のほか、それにより織り成す組織図などが描かれています。】

当社のような機屋(はたや:織物を織ることを生業とする工場のこと)は、主にアパレルブランド服飾のデザイナー等がお客様になります。生地を織る際には、まず初めにお客様から織りたい生地のイメージを聞き取ります。
お客様からは、主に、色、柄、素材(綿・シルク・キュプラ・ナイロン・ポリエステルなど)、生地に欲しい厚みや雰囲気、生地を使って作りたい洋服のイメージなどを伺います。

しかしそれらの情報だけでは生地を織ることは出来ません。この聞き取りから得られた情報で、各工程の職人さんたちに具体的な指示を出していくための全体像を構想していきます。具体的には、使用する糸の太さや各素材の混合率、柄をどういう手法で織り上げるかや、仕上げの方法などを計画していきます。

これらの役割を音楽で例えると、アパレルブランドやデザイナーは「この会場で、何名くらい収容して、こういう雰囲気のクラシックコンサートを開催したい」と企画し、チケットを販売する人。そして当社のような機屋は、その企画内容を聞いて具体的に「どの楽曲をどういう音色で構成し、どのような音楽を奏でるのか」を考え、オーケストラの各楽器の演奏者を理想の音楽のイメージに導いていく指揮者のような役割になります。

全ての楽器の音色を想像し、それらが組み合わさった音楽をイメージするのは毎回至難の業ですが、多様な組み合わせでどれ1つとして同じ結果にならないのは、音楽も織物も同じなのかもしれませんね。

次回は、「工程②:組織データ(織物の設計図)の作成」についてご紹介していきます。

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