ジャカード織生地が出来るまで vol.4 工程④:原料(糸)の仕入れ ~糸の表情づくり~

本シリーズでは、群馬県桐生市にあるジャカード織物を制作している機屋・須裁株式会社が、ジャカード織生地が出来るまでの工程をご紹介しています。

過去の記事も是非こちらからご覧ください:

vol.1 ジャカード織とは? ~200年と100年の歴史~

vol.2 工程①:全体構想 ~機織りの指揮者~

vol.3 工程②:織物の設計図づくり、工程③:紋紙の作成 ~機屋の原風景をつくる音~

 

皆さん、こんにちは。しばらく時間が空いてしまいました…。新緑が綺麗な季節になりましたね。当社のある群馬県・桐生市から見える赤城山も、山頂の雪はすっかり溶けて、山全体が新緑に覆われました。

 

今回は、ジャカード織生地の製作工程で、前回ご説明をした「工程②:織物の設計図(組織データ)づくり」、「工程③:紋紙の作成」と併行して行われる、「工程④:原料(糸)の仕入れ」についてご紹介していきます。

 

 

【ジャカード織生地製作の全工程(先染めの場合)】

工程① 全体構想
工程② 織物の設計図(組織データ)づくり
工程③ 紋紙(もんがみ)の作成
 ※デジタル織機を使う場合は無し
工程④ 原料(糸)の仕入れ
工程⑤ 染色(せんしょく)
 ※「後染め」の場合は「製織」後に実施
工程⑥ 整経(せいけい):経糸(たていと)の準備
工程⑦ 製織(せいしょく):織り
工程⑧ 整理(せいり):生地の風合いの仕上げ
工程⑨ 加工
 ※生地によっては無し
工程⑩ 梱包・出荷

前々回解説した「工程①:全体構想」で、使用する糸の太さや各素材の混合率などを計画しますが、「工程④:原料(糸)の仕入れ」では、計画した内容に応じて必要な糸を仕入れ、生地を織り始めるための準備を進めていきます。作りたい生地によっては、既製品の糸では難しい場合もあるので、その場合は「撚糸(ねんし)」の工程を経たり、織物を織りやすくするためには「サイジング(糊付け)」などの工程を経て、欲しい糸を準備していきます。

「撚糸」とは、読んで字のごとく、糸を撚(よ)る(ねじる)ことで、この作業によって織り上げる生地に様々な表情や風合いを創り出すことが出来ます。既に撚ってある糸を使う場合もあれば、生地のイメージに合わせて、欲しい糸を作るためにオリジナルで糸撚りの工程から行う場合もあります。

【(写真)「撚糸(ねんし)」を効率的に行うための機械。指定した回数撚った糸を、再度巻き取っていきます。】

また、糸の撚り方にも、右撚り左撚りがあり、その見た目から、右撚りは俗にS撚りと言われ、左撚りはZ撚りと言われます。撚りの回数も、1メートルあたり数10回から3000回くらいまでの幅があり、大体1500回以上撚った糸は「強撚糸」、300回未満くらいの糸は「甘撚り」と言われ、織り上げたい生地のイメージによってそれぞれ使い分けます。

【(写真左)「右撚り・S撚り」と、(写真右)「左撚り・Z撚り」。いずれも2500回撚った「強撚糸」のもの。】

【(写真左)「右撚り・S撚り」の300回転したもの(甘撚り)と、(写真右)780回転したもの。元の糸の太さも写真の縮尺も同じだが、撚りの回数が多い方が糸が引き締まって見えますね。】

一方、「サイジング」とは、糸の強度や摩擦耐性の不足により、織りの過程で糸切れや毛羽・毛玉が大量発生することを防ぐために、経糸にあらかじめ「糊(のり)」を付けて強度を補ったり滑りを良くする工程のことを言います。特に、近年のデジタル織機はスピードが速く、糸にかかる負荷も高いため、このサイジングの工程が重要となります。

【(写真)サイジングの工程の様子。糸の1本1本に糊を付けていく機械。】
【(動画)サイジングの工程の様子。糸の1本1本に高速で糊を付けていきます。】

「撚糸」「サイジング」も、それぞれ専門の職人がいて、専門の設備を持つ専門の会社が対応してくれます。当社のような機屋は、こういった専門の職人さん・会社と連携しながら、織物の原料となる糸を準備していきます。

同じ木綿の糸だとしても、こうした糸の撚り方糊付けの仕方を変えることで、異なる表情や機能を糸自体に備えていき、織り上げたい生地の風合いを創り出していきます。糸は自然物ではないので、このように1本1本、表情が違うものを人が意図して準備します。そしてその糸の表情はそのまま、生地として織り上げた時の表情に繋がっていきます。

お店に並ぶ大量の洋服を目前にすると、とても糸1本の表情にまで気が及びませんが、専門の職人さんたちによるこういった工程を1つ1つ経て、洋服は作られていきます。

次回は、色付けをする工程、「工程⑤:染色(せんしょく)」について詳しくご紹介していきます。

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